価値目標思考のすすめ
 ◆ 紹介
価値目標思考のすすめ 表紙
タイトル 価値目標思考のすすめ
著者 上野 則男
発行 NTT出版
発行日 2004年3月
販売価格 1,800円
 ◆ 内容紹介
<コメント>
 

筆者は著者の上野氏とは長年の知己で、ビジネス上のつながりも少なからず有った。その間、氏は多くの企業で改革・改善プロジェクトの実践コンサルティングおよびそのために開発した手法の研修事業を長年進めてきた。その手法において、柱として一貫して主張してきたことの集大成がこの本である。即ち、「目的を本格的に考えないでプロジェクトに手をつけるな」という目的思考の考え方だ。これは簡単な原理であるが、実に多くのケースで守られていないのである。

メルマガ第53号のこのコーナーで紹介した「あきらめの壁をぶち破った人々」(中尾英司著)がこの本にも取り上げられている。日本的風土を題材にして、日本的な改革のガイドブックとしてなかなかの内容と評する。同書では業務改革の実現目標を「ポリシー」と言っている。つまり、ポリシーは、業務改革プロジェクトが実現すべき目標・ゴールの状態を示している。

著者は、企業経営を成功に導く方法として「価値目標思考」、即ち“実現すべき価値”で考えるべきと説く。価値目標思考のキーとなる考え方は「目的・ねらいは?」と「価値目標とは?」の二つだ。実践の入り口は、案件やプロジェクト検討の冒頭にこの二つを問いかけることだ。このために「丸い三角形」という図を使う。これにより「目的・ねらい」−>「問題点」−>「原因」−>「解決策」−>「改善目標」−>「目的・ねらい」という流れで全ての要素が検討される。

この本に、ある情報サービス業大手のケースが登場する。実はこのケースは筆者が前職時代に実際に手がけた例である。社長の発案で役員もこの手法の研修をうけることになった。研修はいくつかのチームに分かれて、実際に解決すべきテーマを取り上げて検討する(チーム間で競争の要素を持ち込むことに特徴)。一般の事業部門のチームに混じって役員チームも参加したのである。正直言って、役員チームのパフォーマンスは実務グループに比較して優れていたわけではない。しかし、その本質はしっかり把握していて(そうでなければ役員にはなれない)、自管掌部門への導入促進に動いていただけたことは推進役として大変ありがたかった。

その時社長が受講後に社内掲示板に載せてくれた「この手法は、お客さまのニーズを引き出す大変よい武器である」から始まるメッセージがもたらす社内へのインパクトはいうまでもない。これらのエピソードをなつかしく思い出す。

ERPパッケージ導入を例題として取り上げて研究することも行われている。一例として当フォーラムの「企業アプリケーション調査報告(2003年)」からいくつか引用がされている。「ERP導入の期待度・満足度」における満足度が目標設定を事前に行うことで飛躍的に向上すると言うデータである。これは、明確な目標と目標値の設定が結果の満足度を高める例証として取り上げられた。

「目的・ねらい」を追求しないレガシ・アプローチとして「前例・みんな主義」(前例や他社との横並び意識だけで結論を出す)、「目的自明主義」(目的は自明として、それ以上考えることをしない思考停止に陥る)の弊害につき具体例を挙げて指摘している。

「目的・ねらい」(「目的」と「ねらい」は違うとして詳しい説明があるがここでは省略)を「価値目標」で考えるための「価値」とは何であろうか。企業においては、簡単に言えば「早い・うまい・安い」の実現であるとする。この3つの順番は当該企業の性格や考え方で決まる。有名な吉野家の牛丼は「早い・安い・うまい」だったと思う。まずは「早い」が市場優位性のベース、「うまい」は多様化したニーズに応えられる品質、「安い」は最後の切り札(できれば価格競争は避けたいもの)として位置づけている。

もう一つのフォーラム調査の引用例は「ERP導入期待度=導入目的」が日米比較の形で取り上げられた。ここで、ERP導入目的が米国では全て「早い・うまい・安い」のいずれかであるが、日本ではそれにあてはまらない中間目標的な項目やそのどれにも当てはまらない項目(従業員満足度の向上など)があるとの指摘である。これはアンケートにおける選択肢の設定の問題であり、「目的」としてふさわしいかどうかについて今後再検討したいと考えている。

最後に付録として、「ERPパッケージの導入」を筆頭に「業務の標準化」「部門間連携の強化」など企業改革のための課題をケーススタディーとして、価値目標思考による目標実現プロセスの検討過程がサンプルとして添付されている。これを自社に当てはめてみることも参考になろう。

全体の筆致は、論理的でありながら大変読みやすく書かれている。わが国の企業では、未だに目的思考でないプロジェクトの進め方が横行している。過去に見られたERPパッケージの導入失敗の多くが、上野氏の言う「前例・みんな主義」「目的自明主義」によることがはっきりしている。ITに限らずプロジェクトでこの種の失敗を繰り返さないためにも本書を読んで見て欲しいものである。


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