NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦
 ◆ 紹介
NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦 表紙
タイトル NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦
著者 経営システム研究会 編
発行 日刊工業新聞社
発行日 2004年4月
販売価格 1,400円
 ◆ 内容紹介
<コメント>
 

ITの本質的な目的は「スピード」と「透明性」にあると言う。スピードの究極的な姿は「リアルタイム」、透明性の究極は全てが「ガラス張り」になることだが、これを見事に実現した稀有なケースが本書のテーマである。

NTTドコモが全社業務を統合した基幹情報システム「DREAMS(ドリームス)」を2002年4月にリリースした。このシステムの前身「ALADIN(アラジン)」で培ったリアルタイム・マネジメントを全社に適用しようとするものだ。本書は、ドリームスの誕生経緯、開発の苦労、定着化や事後評価への取組みなどをリポートする。

この「アラジン」の開発経緯を取上げた「NTTドコモ 強さの秘密」(1998年11月発刊)についても、この書籍紹介コーナーで取上げた(37号)が、プロジェクトリーダーとして本書にたびたび登場する西川清二氏(現・情報システム部長)に、ERPフォーラムで講演いただいたことがある。「ERPによらないERPの開発」というテーマで「アラジン」についてお話いただいたが、大きな反響を呼んだ。この時から次期システムについて言及されていたが、今回その全貌が明らかになったのである。

さて、このドリームスは、アラジンが終わったあとの社長の一言「次は何をしてくれるんだ」から始まったと言う。このエピソードに見られるように、システム開発過程でも終始経営トップの強い関心と支持が得られていることが、システム成功の大きな要因になっている。

システムの特徴は、「先行データ」という概念。例えば、物品購入の承認を受け、発注の時点で、支払い日と支払額はほぼ確定する。この予測値を使うようにすれば、実績の確定を待たずに経営上の判断はリアルタイムに出来るということだ。

もう一つの特徴は、現場の入力負荷を軽減し、かつ業務フローとデータフローを自然な形で同期させるフロントエンドツールだろう。このため、「スケジューラ」と「ワークフロー」に着目した。これらの機能は、当然「リアルタイム・マネジメント」にも大きな武器になる。また、ここでの正確なデータが、システム導入後の効果測定でも定量効果の算定に大きくものをいうのである。

ドリームスはUNIXサーバ49台、ウィンドウズサーバ361台、クライアント数約4万台という構成で、オンラインで450万トランザクション/日を処理するという世界最大級のオープン系基幹業務システムだ。このサーバの一部を提供したサン・マイクロシステムズのCEOスコット・マクネリーは、ドリームスのコンセプトと機能の説明を受けて、「世界のどこを探してもこのような例は存在しない。このようなシステムを実現できたことは全くもって驚きで、開発したドコモに敬意を表する」と語ったという。

システムのもう一つの狙いは、「経理業務の改革と管理会計の確立」である。このコンセプトに関わる本質的な考え方の違いがあり、主管である財務部と情報システム部の間で壮絶なバトルが繰り広げられた。その他、旧来の仕事の仕方にこだわる各部署と激論を交わしながら開発が進められた。

このシステムはドコモグループ37社を巻き込み、基幹業務を全て網羅した文字通りの「ERPシステム」であるが、ERPパッケージは採用していない。その理由を「端的にいって、(既存の)ERPパッケージでは、自分たちの考えるリアルタイム・マネジメントは実現できないから」とする。多くのERPパッケージは、システムにデータが投入されたあとで、「リアルタイム」にデータ統合がはかれるという実績主義がベースだ。ドコモのいう「先行データ」をサポートする機能、つまり業務の実施(債権、債務の発生)とデータ入力を一致させることができないという。

システムは稼動したが、最初の課題は定着率が悪いことであった。稼動後4ヶ月の調査ではこれが29.4%に過ぎなかったと言う。これを70%台にするために新たにプロジェクトが組まれ、改善要望の多い機能の開発、業務マニュアルの整備や研修の実施で理解を徹底させる等の施策を進めた。また、強制力の不足をカバーするために、経営企画部の提案を受け、アカウンタビリティーを明確にする。即ち、ドリームスの出力数字に対する責任の所在を明確にしようとしたのである。これにより、データの信頼性向上とデータ参照への強制力が発生する。業績にストレートに反映するとなれば、誰も「関心がない」といっていられなくなる。これらの努力で4ヶ月後には、定着率が73.9%に達した。

さらには、運用後のフォローとして導入効果測定で定量効果を調査した。その測定方法は、システム導入前後の業務フローを作成し比較すること。測定項目は「稼動」「紙」「経費」である(「稼動」とは、NTTグループ独特の言い方で、「従業員が業務のために働いた時間または行為そのもの」を意味する。本書の中で頻繁に出てくるが、結構便利な用語に思える。ただし、なじみのない読者は戸惑うかもしれない)。

これらの積み上げで間接業務だけで、投資額の21.4%相当の削減が実現したと言う。ただし、この削減額の多くは人件費なので、即座に経費削減にならないが、売上高の増加にもかかわらず、対売上高人件費率が低下していることから、削減効果が上がっていると見ている。さらに、「業務品質向上効果」「決算の早期化」(月次報告で7.1日短縮)「経営データ活用効果」など、多面的に効果測定を行っている。

最後に業務改革における情報システム部門の役割について述べているが、「情報システム部門は業務改革(BPR)を先導すべし」と明解だ。まず、業務ごとにバラバラのシステムは、業務によらない統合システムへ移行することが前提になる。そこで情報システム部門は全体の業務とコンピュータ技術を把握できる立場にあるから、全社をめぐるデータの流れにもとづいて抜本的な業務改善の内容を提案していくことができるとする。

しかし、このような状況にある情報システム部であっても、業務改革を主導できるとは限らないのが多くの日本企業の実態だろう。NTTドコモにおける情報システム部門はまず経営トップの強い信頼を得ており、同時に業務部門からも頼りにされる存在なのだ。このために強い発言力が確保できている。通信業という業種自体、情報システムなしでは企業そのものが成り立たない。そういった前提の下で情報システム部門主導のBPRが成り立つ。それでも、ドコモの情報システム部門が業務改革を提案し推進できるだけの力をつけるために、過去に積み重ねた努力が本書からも十分うかがわれる。

時あたかも、ドコモは通信料金以外に収益を求める「iモードフェリカ」というビジネスモデルの事業化をスタートさせた。この事業の成功のカギはITが握ることは間違いないが、ドリームスというIT基盤がここでも確実に生かされるだろう。(日経情報ストラテジー2004年9月号「NTTドコモ 先行値で最速経営」記事より)

IT経営の好事例として参考になる内容だ。一読を勧めたい。


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