誰も語らなかったIT 9つの秘密
 ◆ 紹介
誰も語らなかったIT 表紙
タイトル 誰も語らなかったIT 9つの秘密
著者 山本 修一郎・鈴木 貴博 著/浜口 友一 監修
発行 ダイヤモンド社
発行日 2004年8月
販売価格 1,500円
 ◆ 内容紹介
<コメント>
 

この本を出すきっかけになった調査結果がある。それは総務省の委託を受けてNTTデータが行った日米の経営のIT導入効果の差についての分析だ。日本の経営者は、アメリカの経営者と比較して、ITの効果を全く実感できていないと言う。「最終的にクライアントである企業経営者がITを導入しても効果を感じていないのだから、情報システム業界をあげて反省すべき事態だと考えるべき」とする。

この調査では、それ以外に2つ日本企業がIT投資効果を得られていない秘密が浮き彫りになっている。1つは、「ITの投資額の規模」、もう1つの(おそらくもっと重要な)原因は、「IT活用能力が日本ではアメリカより大きく下回っている」という事実だ。

日本企業の情報リテラシーが徐々にアメリカ企業に引き離されかかっている。これは由々しき問題、日本の産業競争力の根幹に関る問題だ。

このため「ITはブラックボックスでもなんでもなく、秘密のないものとして理解していただけるように、より分かりやすい言葉で説明する必要がある」と痛感した。そこで、情報システムの秘密をオープンに話す本を書くことにしたのが動機である。

日本でも仕事のやり方を変えることで大成功した企業はある。これは仕事の次元を変えるだけのパワーが加わってこそ、はじめて達成できるレベルなのだ。実は、この本の主題は「(ベンダーから見て)お客様も力が足りない」ということだ。

本書では「これまでのITへの投資の仕方がどのように“へたくそ”だったか」「どうすればもっといい投資の仕方ができるのか」が論じられる。

9つの秘密とは、

  1. 意思決定のプロセスの秘密
  2. システム投資のコストの秘密
  3. 業務標準化パワーの秘密
  4. 1+1=2.5の秘密
  5. アメリカ流マネジメントの秘密
  6. ユビキタス社会の秘密
  7. 知られざるパソコン能力の秘密
  8. 見過ごされがちな情報セキュリティの秘密
  9. コラボレーションの秘密

各々について、詳しく触れる余裕がないが、気になるメッセージのみを記載することにしたい。

  1. 意思決定のプロセスの秘密

    • (経営者は)「あと少しITのことがわかっていたらもっと力が発揮できるのに」「ITの力を使いこなせたら、やりたかった業務革新が実現できるのに」といった思いを持ちながらはがゆい思いをしている。
    • ITプロジェクトには、いくつかの選択肢があることがわかってくる。しかし開発プロジェクトがある程度進んだ段階で、本当の意味の意思決定をすべきポイントが訪れることを経営者は知るべき。「費用対効果の面で検討することが重要だ」といわれるが、その分母である費用は、開発がある程度進まないとはっきりしない。効果についても、どのような段階でどれを選ぶかによって違いが出てくる。
    • ITが不良資産化する率が高いのはむしろ投資姿勢に問題がある。
    • 日本のIT投資の絶対額も、売上規模に対する比率でも、アメリカの水準よりもはるかに低いところにとどまっているのが実情。これが適切なレベルならよいが、適切かどうか判断できず、そこにとどまっているのが実情のようだ。

  2. システム投資のコストの秘密

    • システム投資額の6割は人件費。費目はいろいろでも実態は人件費なので、いかにこれをコントロールするかがコスト管理の決め手になる。
    • 「ITの開発はおそろしく前倒しで介入していかなければ手遅れなのだ」ということを経営者は心しておくべき。システム開発プロジェクトでは「今すぐ決めるか」「もう少し検討して1週間後に決めるか」の狭い幅の中で取組まないと、設計はどんどん進んでしまう。

  3. 業務標準化パワーの秘密

    • ERP導入の具体的な問題点。ERP導入の大きな前提条件は、「あなたの会社の業務を変えて、パッケージのやりかたに合わせてください」というもの。しかし、理屈どおりにいかないために起こる“悲劇”が日本中いたるところで起きている。
    • 従来おこなってきた「業務の自動化投資」は、経営戦略上大きなマイナス。業務プロセスをそのままにした巨大なIT投資は、従来の業務プロセスを固定化し、経営を変えることを困難にする障害物になる。
    • この状況を抜け出すために、EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)が注目されている。モデリング分析によりもう一度企業の情報を仕組みレベルで再設計することで、情報システムが業務の障害物である現状を改め、プロセスが再びつながりやすくなるように変えていく。

  4. 1+1=2.5の秘密

    • M&Aブームで増える企業合併に伴うシステムコストをとりあげている。

  5. アメリカ流マネジメントの秘密

    • 海外(オフショア)でなら安いコストで開発できるのか。この方式には2つの幻想がある。「日本語の堪能なブリッジとなるSEの数は限られている」「インドでも中国でも天才プログラマと普通のプログラマの割合は日本と同じようなもの」というのが実態。
    • 「アメリカ方式をベンチマークせよ」の落とし穴。「アメリカが日本よりもIT先進国」は正しい認識だが、「だからアメリカの進んだやり方を全部コピーすればよい」は間違っている。アメリカのビジネスモデルをそのまま日本に輸入した企業で成功している企業はあまり多くない。

  6. ユビキタス社会の秘密

    • ICタグがもたらす新しい議論。欧米ではICタグ導入による「プライバシー問題」が大きな問題となっている。一部消費者団体のクレームが発端だ。「絶対そうはならない」と保証されない限りはNOというのが消費者団体の立場。ハイテク技術の進歩がマイナスの影響をもたらす現実を考えれば、このような主張を過敏すぎるととらえるのはよくないかもしれない。

  7. 知られざるパソコン能力の秘密

    • グリッドコンピューティングの最新技術とその応用について。

  8. 見過ごされがちな情報セキュリティの秘密

    • セキュリティポリシー策定の動きが広がる。セキュリティポリシーとは、技術的な面での対応、管理面だけでなく、人間系のルールも含めた基本的なルールだ。
    • 現場が守れないようなルールでは「事故を予防する」目的は達成できない。企業の実力にあったセキュリティポリシーの導入が求められる。

  9. コラボレーションの秘密

    • ITは2つの進化に向かっている。一つは「ネットワーク化」、もう一つは「インテリジェント化」。企業をとりまくIT世界はこの二つのキーワードに沿って進化をとげるはずだ。
    • 企業システムのネットワーク化では、社内外の他システムと柔軟に連携していくことが求められる。
    • 複数のシステム連携で実現した新しいサービスは、逆に一つのシステムの障害がすべての障害につながり、バリューチェーン全体がマヒする。2003年、米国東海岸で起こった大停電がその典型的な例だ。
    • e-コラボレーション社会はどんな社会か。技術の進歩に伴い、個々の情報システムがつながりやすくなる。その結果、新しいサービス、これまでできなかったサービスが提供される環境が実現されていく。
    • 「つなぐことができるように技術が変わる」ことが経営者に理解されれば「どのようにつなげて新しいサービスを構築しようか」というビジネス構想が次々にはじまる。これがe-コラボレーション社会だ。

本書の冒頭で、監修者は(この本により)「普通のビジネスマンでも明日から情報システム通になって、情報システム部門と議論したり、自信を持った経営判断ができるようなる」と言っている。また「ITは難解でよくわからないものでなく、意外と本質は単純で、賢い使い方こそが重要なのだ」というメッセージを伝えたいとしている。

その目的は十分果たされたと思う。なによりもやさしい言葉で解説されており、そのなかでITの本質、ITをビジネスの道具としての生かし方が的確に捉えられている。どちらかといえば、ITが専門でない人向けに書かれたようだが、ITの専門家にとっても新しい視点でITを眺めなおすよいきっかけになる。一度は目を通すべき一書だろう。


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