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膨大なIT投資にもかかわらず、なぜ日本経済は低迷を続けてきたのか。経済学と社会学を専門とする研究者が、この難問に正面から取り組んだ。本書は、「3つのジレンマ」と「8つのパラドクス」という形で展開する。前者は、IT投資の効果がないように見える理由を明らかにし、後者はIT投資が経済社会現象のなかで、様々なパラドクス(矛盾)を生み出すが、それが正の効果と負の効果を同時に発生させる可能性について論じる。
投資効果が経済指標に現れない理由を、「3つのジレンマ」に求める。IT産業の成長が製造業の空洞化を埋め切れないこと、IT導入による競争激化が産業内に負け組企業を生むこと、およびIT投資と経営課題とのミスマッチの3つだ。
著者によると、企業のIT投資は1995年から2001年にかけて倍増した。だが、GDP(国内総生産)の伸び率などマクロ経済指標との間に「正の相関関係を見いだせない」と指摘する。なぜ、ITがマクロ経済全体の成長を導けなかったのか。それは情報産業の日本経済に占める割合が、10%程度しかないためである。1割の産業が、日本経済全体の成長をリードするには限界がある。
それと逆に、残りの既存産業が、成熟化ないし衰退に向かっていたからでもある。その大半が、製造業である。IT産業が今後とも成長を遂げるためには、IT資本を購入するおよそ9割の既存(非IT産業)の生産性が高まる必要があろうとする。
IT投資は、産業内のプレイヤーすべてに成功をもたらすよりは、優勝劣敗を助長するかも知れない。これに対して、経済は原則的に「プラスサムの世界」であると著者は考える。IT資本は、根源的に3つの効果を持つ。「経費削減効果」、「付加価値増大効果」と「競争優位創出効果」である、これらによりIT投資はプラスサム市場を生み出すと考えている。
ここで、著者はIT資本の効果は、当該企業の中のワーカーのナレッジ・パワーによって規定されると考え、上記3つの効果による究極的な価値を生み出すナレッジの体系に注目する。「成果実現型IT投資手法」を個々人のなかにしっかり埋め込み、共有化を図らなければならない。
すなわち、IT資本から効果を徹底的に引き出す「組織IQ」を高める必要があるとする。「組織IQ」と「組織EQ」が低い企業がいくらIT資本を増強してもコストがかさむばかりで、生産性が向上するはずがないということになる。
この論調は、このコラムでも過去に何回か取り上げた『インタンジブル・アセット』(エリック・ブリニョルフソン著/CSK訳)における主張、即ち「IT投資は、人的資産や組織資産、組織風土改革など(これらをインタンジブル・アセットと定義)への投資と合わせて初めて企業の生産性に貢献する」と一脈通じるところがある。
「8つのパラドクス」の詳細は割愛するが、上記のような課題を克服するうえで、IT資本の本質を見極めるためにこれらのパラドクスを理解することが必要だとして、以後の議論を進める。
読みこなすには経済学の素養がある程度必要だが、マクロ経済的、産業的な視点でITの意味を見直すのに役立つ一書だろう。
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